大関和とグレース・オルト

私の研究関心は「日本の看護を誰が導入したか」ではなく、「看護という実践が、現場でどのように作られていったか」**にある。

1.大関和を見る目

すでに大関和の業績を高く評価する一方で、彼女を「日本のナイチンゲール」という人物評価に短絡的に直結させる思考とは、私は明確に距離を取っていた。

大関和を偉人として評価するのではなく、『看護婦派出心得』の具体的な記述に入り込み、

  • 看護婦は患者の何を観察するのか
  • 何を自分で処置するのか
  • どこで判断を止めるのか
  • いつ医師に相談するのか
  • 家庭に派遣された看護婦は何を担うのか
  • 看護婦自身に何を要求するのか

を見ようとしていた。逆に言えば、大関和が「近代看護を作った」という結果ではなく、彼女が看護を作っていく過程を見ていた。大関和らが logic of practiceに気づいていたとはおもえないからである

2.そしてオルトを見る目

ところが、かってGHQ看護課長、Grace E. Alt少佐に対する分析視点は、1945年以降の日本について、

GHQが近代看護制度を導入した

の立役者という英雄的存在として取り扱いがちであった。私の観点からして、この英雄像を否定するつもりは毛頭ない。しかし、私は具体的に、

病院はどうなっていたのか。
看護婦は何をしていたのか。
医師は何人いたのか。
現場では何が足りなかったのか。
Altは29回の訪問で何を見たのか。
その観察が、どう政策上の判断に変換されたのか。

を追求したい。我々にとって、必要な作業は「制度」そのものではなく、制度が作られる前の現場と、その現場を観察して制度へ変換する実践への関心である。


3.大関和とオルトーーその現代的意義

大関和とAltを無理に「同じタイプの看護改革者」として、英雄像を作り上げたいと願っていない。時代も二人のバックグランドも全く異なるからである。

大関和Grace E. Alt
時代近代日本の看護形成期 占領下日本
観察対象患者・家庭・看護婦病院・看護学校・看護婦・医療行政
実践看護の具体的処理現場調査・政策形成
問題看護婦は何をするのか誰が看護を担えるのか
境界医師と看護婦医師・看護婦・国家・GHQ
結果看護実践の標準化看護教育・資格・制度の再編

しかし、その違いを越えて、現時点で我々が真剣に問うべき問いは、

「現場で問題が起きたとき、この人は何を見て、どう判断し、誰に何をさせ、どこまでを自分の仕事としたのか」

である。われわれば「現場のロジック」と呼びたい。

4、「logic of practice」は看護史の方法論になり得るか?

ここで私は、 logic of practice を単なる便利な表現ではなく、方法論として明示してよい段階に到達したと考え、次のように定義付けたい・

Rather than beginning with institutions, professional categories, or retrospective evaluations, this approach reconstructs how actors encountered problems in practice, how they interpreted those problems, what actions they took, and how repeated practices gradually produced professional boundaries and institutional forms.

である。そして

Ten years ago, I examined Oozeki Chika without yet having a fully articulated concept of the “logic of practice.” Looking back from my current study of Grace E. Alt, however, I now recognize that I was already asking essentially the same question: how does nursing emerge from the practical problems encountered in the field?

という研究史そのものに逢着したいと考えている。

6.そして最後に、二人の間に一本の問いが立つ

大関和については、

看護婦は、現場で何をする人なのか。

Altについては、

看護婦とは、誰であり、何をすることが許される人なのか。

となる。

前者は実践から職能を作る問い

後者は職能を制度として定義する問い

そして両者をつなぐのが、

How does nursing become a profession through practice?

という問いではなかっただろうか。


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