史料紹介(1945年7月22日付 米陸軍太平洋部隊 首席軍医室 循環通達第29号)の日本語訳

史料(1945年7月22日付 米陸軍太平洋部隊 首席軍医室 循環通達第29号)の日本語訳

一般司令部

アメリカ陸軍太平洋部隊(USAFPAC)

首席軍医室

APO 500

22 July 1945

循環通達 第29号

主題:性病(VD)の管理(VENEREAL DISEASE (VD) CONTROL)

  1. 性病は本司令部において最優先の重大な問題である。その発生率を抑制するため、利用可能なすべての手段を総動員することが不可欠である。

  2. フィリピン作戦の開始以降、これまで低かった性病の発生率が急激に上昇している。フィリピン諸島に駐留する全部隊の現在の発生率は年間約175/1000人であり、より強力な統制措置が講じられない限り、これらの高い発生率は継続するか、あるいはさらに上昇することが予想される。今後、多数の部隊が休暇や将来の作戦に向けたステージング(集結・準備)のためにフィリピン地域に進入するにつれて、この問題はさらに重要性を増すことになる。現在、軍人の主な感染源は売春婦との接触によるものであり、売春婦は農村地域にも存在するが、都市部においてより多数存在し接触しやすい。性病の毒性や治療に対する反応は米国で遭遇するものと同様であるが、軟性下疳(chancroid)の発生率は10倍から20倍に達しており、この疾患が多くの非稼働日数を引き起こす原因となっている。

  3. 調査によると、フィリピンにおける性病統制運動は、部隊の間だけでなく、医療および指揮官の間にも存在する誤った認識によって妨げられている。これらの誤った認識は、売春婦の「安全性」や、予防および治療措置の一律の成功に関するものである。この点に関して、以下の事実注意が喚起される:

    • a. いかなる間隔で行われるものであっても、売春婦の健康診断は、性病に感染していないことを証明する手段としては完全に無価値である。女性の慢性淋菌感染症は、感染した女性の少なくとも半分において、いかなる医学的手段によっても正確に診断することはできない。また、梅毒、軟性下疳、および鼠径肉芽腫(lymphogranuloma venereum)の症状のない女性保菌者も存在する。さらに、ある特定の検査時に実際に感染していなかった売春婦であっても、1時間後には感染している可能性があり、次の検査までの数日間あるいは数週間にわたって感染源であり続ける。

    • b. 機械的予防法(コンドーム)も化学的予防法も、単独であれ併用であれ、いかなる性病、特に梅毒の確実な予防にはならない。

    • c. ペニシリンを適切に使用すれば大部分の淋菌感染症が治癒する(95〜98パーセント)が、淋菌に対して使用される投与量は、同時に感染した梅毒の兆候を遅らせたり完全に隠蔽したりする可能性があり、その結果、治療が最も効果的な時期における梅毒の診断を曖昧にしてしまう。

    • d. 梅毒治療のためのペニシリンの最適使用法はまだ確立されていない。米陸軍で現在使用されている治療システムは軍事的緊急性の理由から採用されたものであり、確率されるべき再発率や最終的な臨床結果はまだ正確に定義されていない。ペニシリンにもかかわらず、梅毒はい依然として生命を脅かす深刻な疾患であり、今後もそうあり続ける。

  4. 指揮官の責任(Command Responsibility)。適切な性病統制プログラムには、医療および指揮経路の両方を通じた多くのアプローチ方法が含まれる。しかし、性病に対する責任を指揮系統が認識することが不可欠であり、この関連において、一部次のように引用されているGHQ, AFPACの1945年7月13日付書簡(AG 726.1 (13 July 45)D)に注意が喚起される:

    • 「1. *** 性病の管理は第一義的に指揮官の責任であり、その任務の遂行に関して部隊指揮官は厳格にその責を負うものとされる。」

    • 「2. 貴職の指揮下の全要素の医療報告書が審査され、そのような増加を示す要素における発生率の減少に関して適切な是正措置が講じられることが望ましい。採用し得る統制措置は、1945年4月25日付の陸軍規則AR 40-210『人間の伝染病の予防と管理』の第VII部『性病』、および現行の戦域循環通達に含まれている。」

  5. 性病統制措置(VD Control Measures)。軍人における性病の発生率を低下させるための以下の措置が提示される。現地の条件により、これらの勧告がすべての部隊に適用できるわけではないことは認識されている。しかし、それらのすべてがさまざまな組織において繰り返し成功裏に利用されてきた。

    • a. 人員(Personnel)

      • (1) 性病統制士官(VDCO): 大規模な基地や司令部では、専任の適格な性病統制士官が下級梯団に対して特定の問題に関する協議や助言のために利用可能である。小規模な司令部や部隊では、地理的位置や問題の深刻さゆえに専任のVD士官が必要となる場合がある。そのような士官が現地で利用できない場合は、経路を通じて要求することができる。専任の性病統制士官が定期的に配属されていない駐屯地においては、他の任務に加えてこの任務を遂行する医療将校が指名されるべきである。これらの性病統制士官は、可能な限り、性病および公衆衛生に関する特別な訓練または経験を有していなければならない。

      • (2) 下士官性病統制担当者: 性病統制業務のために優秀な下士官を指名することの価値は経験によって実証されている。これらは通常、小隊または中隊の軍曹であり、VDCOによる事前訓練を受けた後、自部隊の性病発生率に対する責任を引き受け、個人用予防キットの容易な入手を確実にし、兵士の間で性病回避に対する関心を喚起し、指示されたその他の教育的機能を実行する。この種のプログラムの運用のために、1944年2月25日付の陸軍省循環通達第88号「黒人部隊における性病統制」を参照すべきである。

    • b. 性病教育(VD Education)

      • (1) 最も重要な単一の教育方法は、指揮官、医療将校、および下士官による少人数グループの兵士との個人的なディスカッションである。これらのディスカッションでは、性病およびその予防に関する通常の情報を伝えることに加え、以下を強調すべきである:

        • (a) ペニシリンにもかかわらず梅毒はいまだに深刻な疾患であるという事実、およびペニシリンは軟性下疳、鼠径肉芽腫、および鼡径部肉芽腫に対して治療効果を持たないという事実。

        • (b) 売春はいかなる健康診断システムによっても安全なものにすることはできず、太平洋地域の売春婦の75%以上が1つ以上の性病に感染しているという事実、さらにこれらの売春婦の30%が売春行為を行っている際に性器潰瘍を有していることが判明しているという事実。

        • (c) 即座の予防の重要性の増大、特にコンドームの多大な必要性と適切な使用。

        • (d) 伝染性の性病を持つ個人は、再調整規則(Readjustment Regulations)に基づき、伝染期間中に自宅へ後送することはできないという事実。

        • (e) 性病を防ぐ最も確実な方法は禁欲であること。従軍牧師は兵士との対話において、関わる道徳的問題を提示すべきである。

      • (2) ポスター、パンフレット、映画などの教育資料は、戦域レベルから随時提供される。さらに、現地レベルで教育資料を作成すること、特に予防ステーションの場所をリストしたカードやポスター、組織内の部隊の比較発生率を示すポスター、および現地サービス新聞でのパブリシティは、しばしば有益である。

    • c. 予防(Prophylaxis)

      • (1) 機械的予防具(コンドーム)および予防キットは、パスや休暇に出発するすべての軍人、ならびにすべての予防ステーション、憲兵隊の情報ステーション、および示されるその他の中心的な場所における陸海軍の人員に対して、自由に利用できるようにするか、あるいは支給すべきである。

      • (2) 予防ステーションは、部隊が頻繁に訪れるすべての都市、町、または地区に設置されるべきである。混雑を防ぐのに十分な数であり、露出エリアに容易にアクセスできる場所に位置していなければならない。それらは清潔であり、効率的かつ礼儀正しいサービスを提供し、ある程度のプライバシーを確保すべきである。予防はすべての診療所(dispensaries)でも利用できるようにすべきである。予防ステーションは目立つように表示し、都市部では場所を示す案内板が有用である。

      • (3) 泥酔状態でキャンプに帰還するすべての兵士には、強制的な予防措置を施すべきである。

      • (4) 経口予防法(Oral Prophylaxis)

        • (a) 承認: 経口スルファジアジン予防法は必要に応じて使用することが承認されており、梅毒の予防には効果がないものの、軟性下疳の高発症率を考慮すると特に価値のある性病統制措置とみなされている。経口スルファジアジン予防法は、例外的に発生率の高い特定の部隊においては義務化することができる。

        • (b) 方法: 経口スルファジアジン予防法は、曝露後の最初の8時間以内に投与される場合、通常の予防手順、特にカロメル軟膏(calomel ointment)を伴うべきである。曝露後8時間から24時間の間は、他の予防手順なしでスルファジアジンを投与することができる。投与量は、薬剤2グラムの単回投与とし、係員の面前で服用させること。

    • d. 民間との調整(Civilian Coordination)。感染した各兵士から、注意深く完全な性病接触履歴(contact history)を聴取すべきである。女性の名前や正確な住所は多くの場合に入手できないが、接触場所の位置を特定することには特別な注意を払うべきである。この点に関して、街路図(street diagrams)がしばしば有用である。また、兵士に実際の曝露場所を指し示させるため、調査機関との取り決めを行うこともできる。感染した女性の特定と治療にあたっては、地元の保健・警察当局に対して可能な限りの援助と奨励を与えるべきである。

    • e. 売春(Prostitution)。売春を抑圧するための強力なプログラムは、おそらく単一で最も効果的な性病統制措置である。組織化された売春宿から路上で客引きをする個々の営業への売春婦の分散は、軍人との潜在的な感染接触の数を減少させる。そのような分散にもかかわらず、売春婦は依然として摘発し、検査し、治療することができる。この関連において、一部次のように引用されているGHQ, AFPACの書簡(Subject: "Control of Prostitution")に注意が喚起される:

      • 「1. *** フィリピン政府の法律において売春が違法であること、および陸軍省ACO秘密覚書(1945年4月24日付、主題:『海外作戦戦域における売春』(AG 726.1 OB-3-A-SFGAM-M))に則り、首席憲兵司令官(Chief Provost Marshal)がフィリピン当局と協力して、売春の強力な抑圧プログラムを実行することが望ましい。」この書簡は、軍人が頻繁に訪れるすべての地域において、売春の強力な抑圧を部隊指揮官に義務付けるものと解釈される。部隊指揮官は、可能な限り、民間当局による売春の抑圧を援助・支援するものとする。性病接触履歴、憲兵隊、ならびに民間警察および保健士官を通じて特定されたすべての売春宿は、軍人に対して「立ち入り禁止(Off Limits)」に指定され、そのような「立ち入り禁止」制限に違反する軍人を摘発し処罰するための措置が講じられるものとする。

    • f. その他の統制措置(Miscellaneous Control Measures)

      • (1) 娯楽(Recreation): ラウンジ、休憩室、執筆および室内ゲーム室、ソフトドリンク、ビール、スナックバー、ダンス、映画、ビーチでの遊泳施設、組織的な観光、運動競技、ボウリング場、ビリヤード台、レストラン、理髪店、ソーダファウンテン等を完備した大規模なPAセンターなどの適切な娯楽施設の提供は、性病の統制において計り知れない価値がある。

      • (2) キャンプ内での制限(Restrictions in Camp): 休暇やパスの制限、特に混雑した地域への制限、および点呼(bed check)は、実際の曝露数を減らす上でかなりの価値があることが実証されている。これらの措置は、性病発生率の高いすべての部隊に推奨される。

      • (3) 公式の用務で滞在する者を除くすべての民間人のキャンプ区域への立ち入り禁止: 洗濯婦等がキャンプ内またはそのすぐ近くで売春を行わないよう確保することに特別な注意を払うべきである。

配布先:B (MD)

陸軍省必須航空郵便により、主要司令部、部門、および基地の軍医へ。 郵便により、その他すべての軍医および患者のケアに関係する部隊へ。

ガイ・B・デニット 米陸軍 准将 首席軍医

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